「私、ゲンが好きです」

言った!とうとう言ってやった!
出会ってからゲンの事が気になっていた。気が付いたら好きだった。杠やニッキーに相談したら痛いくらい力強く背中を押してもらえた。なので呼び出して告白した。
だってゲンみたいに人の心をよく分かっている人から見たら、私の気持ちなんてバレバレだと思ったから。
案の定、ゲンは全てお見通しでしたという顔で「ありがとね〜」と頷いてくれた。

「それで、俺はどうしたら良い?」
「いや特に何も」
「……ん?」
「聞いてくれてありがとう!伝わって良かった」

彼にただ私の気持ちを知って欲しかった。一方的な思いだったけれど、これでようやく私も次のステップに進めそうだ。

「じゃあ私もう寝るね、また明日も頑張ろう」
「いやいやいやいや 」

踵を返すとゲンはいきなり私の前に回り込んできた。凄いスピードだ。

「えっジーマーで?そんだけ?」

もしかして、たかがこんな一言の為だけに俺の時間を奪ったのかとか、そういう文句を言われたりするのだろうか。

「ゴメン、なんかショボくて」
「そーいう事じゃないんだけどさ〜〜」

違うらしい。それもそうか、そうだったら好きになったりしない。……多分。

「ほら、好きな人としたい事とかあったりするんじゃないの?」
「え、うーーん……考えた事なかった」
「ジーマーで!?」

さっきから、好きだと告げた時より彼のリアクションが大きい。恥ずかしながら告白した後の話なんてちっとも考えていなかった。
ゲンを納得させる返答をひねり出そうとしている最中、彼は何故かどんどん距離を詰めてくる。
なんとなく後ずさっていると、大きな木の幹に背中を預ける形になってしまった。

「ほ、ほんとに考えてなかったから、杠とニッキーに相談してく……ひゃっ」

顔のすぐ横に、何かが伸びてきた。ゲンの腕だった。

「もしかして名前ちゃん、意外と策士だったり?」
「なななななんの事でしょう」

先程の柔和な雰囲気から一転、何かを企んでいるような堪えているような顔でゲンは口の端をつり上げた。

「手に入ったと思ったものを失うと惜しく感じちゃうんだよね」

人間というのはそういうものだとゲンは言う。

「ん?それって昨日、トランプで……?」
「ご名答。まさか俺がそっくりそのままくらうとは思わなかったよ」

それは気球に乗る人員を決めていた時。
ゲンと千空の掌の上で良いように踊らされている龍水の姿を、私は急に思い出したのだ。

「うまいこと告らせちゃって……なんて思ってたけど、やっぱりそうはいかないね〜なかなか」
「えっ」
「ま、そういうトコも好きなんだから仕方ないか」
「えええ待って待って」
「ごめん、待てない」

そう短く告げると、ゲンは肘を曲げていよいよ私の眼前に迫った。おまけにもう片方の手が頬に添えられる。
ああこれ、ものすごくマズイ状況だなぁ。
ニッコリと効果音が付きそうなくらい完璧な彼の笑顔を目に焼きつけて、私は固く固く目を閉じた。

長い瞬きが終わったら、応援してくれている友人達に何から報告したら良いのか、考えなければ。



2020.1.26


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